宇宙のことが心配です

好きに色んなことを書きます。日記が中心です。本、映画、漫画、アニメなどで暇を潰す事が多いので、その手の感想も書くかもしれません。

つげ義春全集3【鬼面石・一刀両断】を読んで

<全集について>

つげ義春全集の3巻目は、「鬼面石」と「一刀両断」という漫画を中心にして、それ以外の短い作品がいくつか載っている。(「盲刃」「落武者」「忍びの城」)

「一刀両断」は、第一部と第二部に分かれる長い作品。

この全集に載ってる漫画は、全部、時代劇となっている。解説によると、当時は、時代劇ものがブームだったらしい。

 

<感想>

ねじ式」とか「紅い花」とか、つげ義春の、比較的芸術的だと思われる部類の漫画は何個か読んだことがあったが、この全集に載っている作品は、それよりも娯楽的で、ストーリーにも結構、展開がある。「ああ、こんなものも書けるんだな」と思った。

そんな風に言うと、こっちの方の漫画は、それ程のものじゃないみたいな言い方になるかもしれないが、別にそんなことはない。この時代劇ものも、相当、面白い。ストーリーがドラマチックだったりして、そのために、無理があるように感じられる展開もあるのだが、しかし、ほとんど気にならない。絵とか、見せ方が上手いというのもあるだろうし、たぶん、物語の一番肝心なところはしっかり描いているからだろう。「やっぱ、こういう面白いものが書けてこその「ねじ式」なんだな」と思った。

中でも、やっぱり表題作「鬼面石」と「一刀両断」は面白かった。

「鬼面石」は、とんでもなく醜い顔で生まれてきた男が、色々と大変なことになる話。これが、結構な、悲劇的な話なのだが、でも、読後感は決して悪くない。いや、悲劇的な話というのは、泣けるから、いつも、読んだ気分としては悪くはないものだ。気分が悪くなるのは、絶望的な話である。

思うに、つげ義春は、醜い顔で生まれた男がこんな風になってしまうという現実を、あまり大したことでもないと思ってるんじゃないだろうか。というか、当たり前のことだ、くらいに思ってるんじゃないだろうか。だから、この漫画からは、主人公の悲しみ

と、主人公の周りの人間の理不尽さが、綺麗にバランスを取る形で、物語を面白くしているように感じられる。主人公の純粋さも、周囲の理不尽さも、どちらも互いに影響し合うからこそ成り立つという風に見える。これは、作者が、純粋さと理不尽さを、両方俯瞰できる立場にいるという事だ。

しかし、こういう話を、ここまでしっかり描くのは、やっぱりすごいと思った。

「一刀両断」の方は、何かユニーク。第二部のラストが、一回読んでも、よく分からなかったので、ペラペラページをめくって、少し考えた。すごいオチだなと思った。今まで、こういうオチを読んだことがない。何だか、「そりゃないだろ」系なオチにも、始めは感じたが、ちょっと振り返ってみると、結構、センスのあるオチという気がしてきた。主人公の、まともなのか何なのか分からない不思議な性格と、この肩透かしみたいなオチが混じり合って、作品全体として良いまとまりを作っているように思った。

その他の作品も面白い。中でも「落武者」が良かった。「こんなのが描けるんだからなあ」と、しきりに思った。