宇宙のことが心配です

好きに色んなことを書きます。日記が中心です。本、映画、漫画、アニメなどで暇を潰す事が多いので、その手の感想も書くかもしれません。

映画「桜桃の味」をみた

 

桜桃の味(字幕版)

桜桃の味(字幕版)

  • ホマユン・エルシャディ
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傑作だと思う。

たぶん、今年の映画の中でベスト10に入る。

 

あらすじはシンプル。

自殺を考えている男が、それを手伝ってくれる人間を探して、金で雇おうとする話。

男は、車であたりを走り回り、道行く人に声をかける。

「明日の朝、穴の中に寝ているわたしに声をかけて、もし返事が無かったら、土をかけて穴を埋めてくれ」

 

何人かの人と対話をし、そのセリフは何気ない自然なものだが、様々なものが読み取れる。かなり練られた会話だと思う。

また、何気ない出来事もいろいろ起こるが、それも考えようによっては、しっかりと意味を持って立ち上がってくる。

 

老人が男に自殺を止めるように説得する場面がある。

その中で、タイトルにある「桜桃の味」という言葉が出てくる。

この場面は感動を誘うものでもあるのだが、それと同時に、結局のところ、老人の言葉が男に届いていないという絶望感が、自然と伝わってくる。

このあたりの、特に直接的な表現はしていないにもかかわらず、観客に感じさせる力がすごいと思った。

 

最後のシーンについては、やはり色々と思うことがある。

一見、これには何の意味があるのか分からない。

ホーリーマウンテン」という映画があって、そのラストにもこんな展開があった気がするが、たぶんその意図は全然違うだろう。

この映画のラストは「ホーリーマウンテン」よりもさらに意味深だ。

ホーリーマウンテン」では、しっかりと主張がされているが、この映画ではそれすらない。

見方によっては、まるでNG集のようなサービス精神によるものと捉えることもできる。

しかし、まあ、色々と解釈はあるはずだが、僕が思うのは、このラストは、この映画が自殺ほう助と言うテーマを扱っていることにより、意味を持ち始めるのではないかというものだ。

この映画のラストを見た人間はきっと誰もが、ラストの解釈について考えるはずだ。

そしてある種の人間は、解釈について悩み、答えが無いことに苦しむかもしれない。

しかし、その姿は、まるで男が人生について苦悩しているようではないだろうか。

つまり、観客は、ラストについてあれこれと考えるうちに、男の苦悩を体験してしまうのではないだろうか。

そう考えると、ラストには意味がでてくる。

しかし、さらに面白いのは、このラストは、観客に制作場面を見せることで、「こんなのは所詮映画ですよ」という主張をしているようにもとれるといことだ。

つまり、それは、「そんなに考えても仕方ないですよ」と言っているようにもとれ、自殺を冷めた態度で見つめることにもつながる。

こんな感じで、観客にあれこれ考えさせておきながら、反対に考えるなと言っているような、そんな二重の意味が込められていると解釈すると面白い。