小説「黄金探索者」を読んだ
ネタバレ無し
ル・クレジオの作品は、「調書」しか読んだことがない。「調書」は、難しくてあんまりおもしろくなかった。基本的に、登場人物が一人で行動している場面が多くて、心情の説明が多い。また、展開にそれほど、刺激がない。だから、退屈さがあった。
この「黄金探索者」という小説も、「調書」と似たところがあって、やはり退屈さは少しあった。でも、船旅をしたり、黄金探索したり、戦争に行ったり、色々な冒険が詰め込まれていたから、読むのは楽しかった。作者はきっと、これらの冒険に自分の夢を託しているんじゃないかと感じた。
だからなのか、読んでいても、あまり暗い気持ちにならなかった。戦争の描写もそうだ。ぼくが今まで読んできた小説では、戦争が出てくると、大抵、けっこうなショックを受けたものだ。でも、この作品ではそれほど暗い気持ちにならなかった。もちろん、残酷な描写も容赦なく描かれるのだが、不思議なことにそれが戦争批判というよりも、戦争を冒険の一つであると描いているような印象を受けるのだ。
この主人公は、定職について、生きていくという普通の暮らしから逃れたいという想いを持っている。それが、旅をしたり、黄金探索をしたりということにつながっている。こういう感情に共感する人間は、実際、けっこう多いんじゃないだろうか?例えば、旅行へ行きたいなんていう衝動も、こういう感情の現れではないだろうか。ぼくは、この作品で描かれていることは、多くの人間が共感できることであるように感じた。