宇宙のことが心配です

好きに色んなことを書きます。日記が中心です。本、映画、漫画、アニメなどで暇を潰す事が多いので、その手の感想も書くかもしれません。

「物語の作り方」をよんだ

 

ネタバレ無し

 

やっと読み終わった。長かった。しかし面白かった。これは、創作にかかわっている人間にとっては、とても贅沢な本ではないだろうか。

 

この本には、ガルシア・マルケスが開いているシナリオ教室での創作の模様が記録されている。出てくる登場人物たちの名前は全然知らないが、巻頭の説明によれば、みんな創作のプロのようだ。

 

シナリオ教室では、30分ドラマの脚本をみんなで、あれこれ意見を出し合いながら、作り上げている。この部分はリアリティーが無いとか、それならどうすればいいのか、などと言いあいながら、話をどんどん作っていく。気づけば、始めに想定したストーリーと全然違うものになっていたりする。これを読んでいると、脚本を書いている人たちってこういう風に作っているのかと、秘密を覗いた気分がする。この話だと、このキャラクターは邪魔だから、死んだことにしようか、などと軽く言ってしまったりする場面には、創作者の狂気を感じる。

 

みんな創作のプロだから、それなりに技術があるのだろうが、中でも、やはりガルシア・マルケスの発言はみんなと一味違う気がする。読む方としても、彼の発言だと思うと、自然に引き付けられてしまう。彼の発言は、何気ないものでも、どこか芯をとらえた深いものに思えてしまう。シナリオ教室は、やはり彼を中心に回っているのだ。さすが、ノーベル賞受賞者といった感じだ。

 

ガルシア・マルケスは、シナリオ教室のコンセプトとして、「傑作を生むためにこういうことをしているのではない。この教室では、創作の過程に注目したい。」的なことを言っている。彼は、創作の結果ではなく、創作そのものの不思議について、興味があるというのだ。

 

また、彼は、こんな風にも言う。「この教室を出たら、ここで話した物語についてはあれこれ考えないでもらいたい。」彼は、あくまで仕事として、創作を考えているようだ。一日、これだけ創作に時間を割いたら、後の時間はいっさい忘れるというのは、サラリーマンの心がけみたいで、面白い。

 

また、彼は、「自分のアイディアを一人で隠し持っていたら、良い物語は生まれない。」と言う。これも、なかなかすごいことを言っている。普通は、素晴らしいアイディアがあったら、それを自分だけのものにしたいと思うものだ。彼は、そういう閉鎖的で秘密主義的な考え方をはねのける。なかなか太っ腹だ。

 

そして、よく考えてみれば、まさにこの本が、そういう彼の考え方によって生まれたものだ。彼がみんなと創作過程を共有しようと考えたからこそ、この本は生まれたのだ。普通、創作者は自分の創作の秘密を隠したがるものではないか?しかし、彼は、自分の創作の考えなども惜しみなくオープンにする。これは、彼の性格によるものなのか、信念なのか、分からないが、やはりすごいことだろう。たぶん、この本は、創作を目指す人間にとっては、宝の本だろう。