家族ゲーム
森田芳光監督を知らなかったが、調べてみると、失楽園とか間宮兄弟とか武士の家計簿とか、よく知っている映画を撮っている人だった。
よく知っていると言っても、名前だけで見たことは無いのだが。
今挙げた映画のほかにも、よしもとばななのキッチンも撮ったらしい。
これは興行的に失敗したようだが、内容はそんなに悪くないらしい。
調べてみると結構有名な監督のようだ。
しかし、正直なことを言うと、監督の映画にはあまり興味がない。
感覚的に、あまり趣味じゃない気がしている。
単純に最近の邦画があまり面白くないということかもしれない。
でも、この家族ゲームという映画は、面白かった。
アマゾンプライムで勝手に推薦されていて、どうやら高評価な作品らしいと知ってから、興味が持っていた。
この映画では、問題を抱えたとある家族が描かれている。
時代は一昔前。
良い大学へ行かなければだめなんだという考えが主流の時代。
次男が受験を控えているのだが、こいつの成績が上がらない。
父親は次男の成績を上げるために家庭教師を雇うことを決める。
やってきた家庭教師は、なんと三流大学の七年生だった。
という話。
問題を抱えた家庭に家庭教師がやってくるという時点で、何となく想像していたのは、破天荒な家庭教師がヒーローのように感動的に問題を解決していくというものだった。
もし、そうなっていたら、多分クサいドラマになっていたと思う。
ちなみに、僕はそういうクサいドラマは苦手だ。(ごくせんとか)
でもこの映画は、イメージとは違った。
この三流大学出身の家庭教師は、ヒーローでもなんでもなくて、本当に三流大学出身の変わり者だ。
問題を格好よく解決してくれることなどなく、この男ができる範囲内のことをやってみせるだけだ。
そこにドラマチックなところはまるでない。
この点はすごい良かった。
この家庭教師は、三流大学といっても、それなりに教育的に要領を得ている感じはある。
意外と言っていることはまともだし、態度も理性的だ。
決して教育的なセンスがないというわけではないという印象だった。
ただ、最初の方で、父親と家庭教師が車の中で密談するシーンがある。
父「成績を上げたら、金は出すよ。一位上げるごとに一万出してもいい」
家庭教師「ほんとですか」
家庭教師はこうして俄然やる気を出す。
家庭教師は、更にこう言う。
「一万ですよ。絶対ですよ。頼みますよ。云々」
このシーン、父親と家庭教師はいかにも汚い大人であり、この二人は駄目だなと感じざるを得ない。
しかし、まあ、大学生の方は、金のこととなると他のことはどうでもよくなる人間であるというだけだ。
これはリアルにクズっぽいが、ただそれだけに過ぎない。
彼はクズ人間であり、それ故に、クズであるということの不快感はあるのだが、最低限のことはちゃんとしているので、家族のメンバーたちと比べたら、不愉快な印象は無い。
つまり、三流大学という意味では馬鹿ではあるのだろうが、人間としては馬鹿ではないという感じ。
結構、常識的なのだ。
例えば、次男を叱り付ける時に張り手を一発くらわすシーンがあるのだが、これなんかは、ちゃんと理由があって、寧ろ次男の曲がった根性を叩きなおすためにはそれしかないのではないかと視聴者としても思ってしまうくらいなので、その意味ではちゃんとしていると思う。
勿論、どんな理由があっても、暴力はいけないという意見もあろうが、まあ、暴力に訴えるというやり方の中では比較的まともに映るのだ。
だから、家庭教師は結構まともに映る。
あくまで普通にクズっぽい大学生という感じ。
僕には、それよりも家族の方が酷く感じられる。
父親は、あくまで頑固に成績を上げろの一点張り。
自分が息子たちに直接かかわるとぎくしゃくするからと言って、母親と家庭教師に教育を任せている。
任せていながら、息子たちを上手に教育できない母親に苦言を呈している。
母親の方は、夫に怒られるのが怖いからと言って、息子たちに、勉強するようしつこく言い続けている。
次男は勉強をしていないのにもかかわらず、自分は頭が良いなどと言っており、時には周りを馬鹿にしているような感じすらある。
大人に対して反抗的でありながら、甘えてもいる。
言われた事を守らなくても、殴られやしないだろうとたかをくくっており、それ故に家庭教師に張り手を食らうと、すぐに言うことを聞く。
そして「やさしくしてくださいよ」などとほざく。
次男の性格は個人的にかなりむかついた。
そして、こんなやつ、確かにいるなと思わせるところが、この映画のリアルなところ。
長男は、次男の成績問題に関して、巻き込まれたくないという感じで、次男に比べれば優等生なのだが、色々と不満は抱えている印象。
長男は比較的、問題の少ない学生に見える。
少なくとも、見ていて、苛々はしない。
そんなに登場もしない。
家族の中では一番、良い性格をしているような気がする。
母親が「お父さんが怒るから、ちゃんと言うこと聞いてね」と言うと、長男は色々と言いたいこともあるだろうが、それらを堪えて、「わかっているよ」と答えるのだ。
そんな性格だ。
だから、それ故に、こっちとしては、辛さも人一倍あるのではと疑ってしまう。
僕の感覚だと、この家族の問題の根本は父親の頑固な姿勢にあるような気がする。
父親が息子らの自由意思を無視し、あくまで勉強を強制するせいで、息子らは大きなストレスを抱えている。
また、母親も父親への恐怖から、おどおどして、奴隷になり下がっている。
しかし、一方で次男の性格自体にもクズっぽいところが見られ、それが父親のせいなのかというと、それも違う気がする。
結局、何がこの家庭を脅かしているのかというのは、考えても分からない。
実際、父親の成績にこだわる姿勢にも確かに正義があるのだ。
良い学校には行った方が確かにいい道が開けるという事実は存在する。
こうなってくると、社会のシステムの問題も関わってきて、ますます分からなくなる。
この家族はどうしてこんなことになっているのか。
結局、言うことできるのは、社会の歪みがこの家族の中に侵入したということだろうか。
ウイルスが父親経由で家族に侵入し、家族内にストレスがばらまかれるというイメージか。
一番良かったシーン。
最後の食事のシーン。
家庭教師が家族を殴って失神させ、机の上の料理を全て床にぶちまけてしまう。
これがすごく爽快だった。
問題を抱えた家族を1時間以上も見せられて、視聴者としてもイライラが募っているなかで、この破壊のシーンがくる。
これは本当に良かった。
「おまえら、なにやってんの?馬鹿じゃねえの?」という人間、あるいは社会への痛烈な皮肉であるように思われる。
家族ゲームという映画のタイトルはおそらく、大事なものを失い不満を抱える家族を、表面だけを繕っているものとして、皮肉ったものだろう。
外部から見ると、彼らはあまりに馬鹿馬鹿しいことをしているように見える。
しかし、よく考えてみれば、どのキャラクターも馴染みのあるものだと気づく。
映画を見て笑いながらも、それが自分たちのリアルでもあると分かってしまうのだ。
こういうところが本当に良い映画である証拠であると感じた。
最後のヘリコプターのシーンは意味が分からなかった。
あと、全体的に演出の凝った作品で、実験的な趣すらある。
そして、それが結構いい味を出していたとも思う。